私たちを振り回しているのは、セックスしていない時間なのかもしれない。
OPUS · NEWS & VOICE
ここまで、ずっとセックスについて考えてきた。
でも最後に、少し変なことに気づく。
この連載で考えてきたことの多くは、実はセックスしている最中の話ではない。
セックスする前に想像すること。
相手を求めること。
選ばれるかもしれないと期待すること。
断られて寂しくなること。
終わったあとに思い出すこと。
またセックスしたいと思うこと。
そう考えると、私たちを長い時間動かしているものは、
セックスそのものではなく、「セックスしていない時間」なのかもしれない。
セックスには「前」がある
誰かと会う約束をする。
まだ数日先なのに楽しみになる。
服を選ぶ。
少し身体を整える。
どんな話をしようか考える。
セックスをするかどうかさえ決まっていないのに、その可能性を想像する。
あるいは、まだ会ったことのない誰かとのセックスを空想することもある。
オナニーをしながら、頭の中に物語をつくることもある。
そこでは現実のセックスは、一秒も起きていない。
でも、心は動いている。
つまり人間は、まだ存在していない性的な時間を想像して、その未来に現在の感情を動かされることができる。
これはなかなか不思議な能力だと思う。
そして「後」もある
セックスが終われば、それですべて消えるわけでもない。
心地よかった時間を思い出す。
相手の言葉を思い出す。
満たされた気持ちが残ることもある。
もっと一緒にいたいと思うこともある。
反対に、なぜか寂しくなることもある。
「思っていたものとは違った」と感じることもある。
オーガズムの強さだけでは、こうした違いを説明できない。
セックスは、終わったあとにどう感じたかまで含めて、一つの経験になる。
だから一瞬の出来事が記憶になる。
そして記憶になったセックスは、次の欲望にもなる。
「あの時間を、もう一度」
と思うことがある。
あるいは、
「次は、もう少し違う時間がいい」
と思うこともある。
経験が、次の想像をつくる。
BEFORE / DURING / AFTER
ここまでの5章を、三つの時間に分けてみる。
BEFORE
想像する。期待する。相手を探す。選ぶ。選ばれたいと思う。
DURING
触れ合う。興奮する。身体を感じる。親密さを感じる。オーガズムを迎えることもある。
AFTER
満足する。思い出す。安心する。寂しくなる。また欲しくなる。
セックスそのものは、真ん中にしかない。
でも、「性的な経験」は、その前後へ大きく広がっている。
これなら、最初の疑問にも少し答えられる。
なぜ、人生のほんの短い時間しか占めないセックスに、人間はこれほど振り回されるのか。
それは、一瞬の快感だけを追いかけているからではないのかもしれない。
女性用風俗という場所から見える、不思議なこと
ここで最後に、私たちOPUSがいる場所から、この問いを見てみたい。
女性用風俗という場所には、少し特殊なところがある。
女性が自分の意思で男性を選び、その人と過ごす時間に対価を払う。
この事実だけを見て、
「セックスがしたい女性が利用する場所」
と言ってしまえば、とても簡単だ。
でも、それだけでは見えなくなるものがある。
もしオーガズムだけなら、オナニーという方法もある。
恋愛そのものを求めるなら、恋人という関係もある。
会話だけなら、友人と過ごす方法だってある。
それでも、恋人ではない男性との親密な時間を、自分の意思で選びたい女性がいる。
そこには何があるのだろう。
男性の身体に触れたい。
触れられたい。
セックスを楽しみたい。
誰かに丁寧に向き合ってほしい。
日常とは違う時間を過ごしたい。
女性として扱われることが嬉しい。
恋愛や生活を持ち込まず、その時間だけ親密でいたい。
もちろん、すべての女性が同じ理由ではない。
むしろ私たちが感じるのは、理由が一人ずつ違うことのほうが自然だということだ。
「セックスしたい」は、ひとつの欲望ではなかった
第1章では、
セックスなんか要らなければ、人生はもっと簡単だったのではないか。
と考えた。
第2章では、オーガズムという一瞬の快感と、それよりずっと長い「欲しい」という時間を考えた。
第3章では、自分一人ではセックスできないこと、相手の同意、選ぶこと、選ばれることを考えた。
第4章では、「セックスしたい」の中に、快感だけではなく、親密さ、愛情、承認、自己確認、解放などが重なっている可能性を考えた。
そして最後に見えてきたのは、たぶんこれだ。
人間がセックスに振り回されるのは、セックスが一つの欲望だからではない。
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あまりにもたくさんの欲望を、私たちが「セックス」という一つの言葉に託しているからなのかもしれない。
だから、セックスは短いのに、人生の遠くまで入り込んでくる。
まだ起きていないセックスを想像できる。
終わったセックスを思い出せる。
誰かに求められたことを覚えている。
触れられた体温を覚えている。
そして、いつかまた誰かを求める。
一瞬なのに、一瞬では終わらない。
それが、人間にとってのセックスなのかもしれない。
そしてもし、
「セックスしたい」
という気持ちが自分の中に現れたなら、急いで恥ずかしがらなくてもいいと思う。
その奥に何があるのか、少しだけ自分に聞いてみる。
オーガズムが欲しいのか。
人肌が恋しいのか。
誰かに求められたいのか。
ただ、日常から少し離れたいのか。
答えがいくつあってもいい。
答えがまだ分からなくてもいい。
自分の欲望を知ろうとすることは、自分を大切に扱うことの一つでもある。
OPUSが、そんな気持ちを安心して認められる場所でありたいと思っています。
SERIES COMPLETE|全5章
なぜ私たちは、こんなにもセックスに振り回されるのか。
第1章からもう一度読みたい方は、OPUS公式サイトからお読みいただけます。



